僕は手術が出来ない獣医さん

動物行政、動物愛護、殺処分等について、動物愛護センター獣医師としての勤務経験を通して感じたことをつらつらと。あとはフォトグラファーとしての活動もつらつらと。

多頭飼育崩壊②〜行政とボランティアそれぞれの立場〜

多頭飼育崩壊と言っても、もちろん最初は少数の動物から始まります。その少数の中でメスが子を産み、またその子が子を産み・・・といった具合で産まれに産まれ、結果、飼い主の生活は破綻します。不妊手術代の数万円をケチったがために、取り返しのつかない事態に陥ります。しかし飼い主によっては、「ケチった」のではなく、ホントに金がないねんっていうケースもあります。つまり、飼い主自身が経済的に困窮しているケース、例えば生活保護受給者等にとっては、数万円というのは決して簡単に捻出出来る金額ではないのです。・・・生活保護受給者が動物を飼育することについての是非については、ここでは触れません。

で、実際に多頭飼育崩壊と言われる事案には何件も遭遇してきましたが、やはり結構な割合で飼い主さんは生活保護を全額または部分的に受給されていました。

ここで僕が言いたいのは、「生活保護受給者は動物飼うな!」とか、「生活保護受給者=無責任な飼い主」ということではありません

多頭飼育崩壊問題を考える上では、まず社会全体を見なければならないということです。経済的困窮だけではなく、飼い主の年齢や、心身の状態、社会との関わり方等、様々な要因が絡み合って、飼い主を多頭飼育崩壊へと追い詰めていきます。

多頭飼育崩壊が起こってしまうと、その解決はとんでもなく難しいです。ボランティアは手一杯、行政も手一杯。こうなってくると、殺処分も致し方がないという状況になってきます。ただ、僕が在籍中は、そうやって入ってきた多頭飼育崩壊の猫を、いわゆる「ガス室送り」にせずにすみました。収容した猫の譲渡先を必死で探してくれた一部のボランティアの方々のパワーの賜物です。

一度起こってしまうと、解決に途方もない労力を要する多頭飼育崩壊。これを未然に防止することは出来ないのか。僕たちは、生活保護関連の部署はもちろん、高齢者、福祉、様々な役所の部署に、危うい飼い主についての情報提供を呼びかけようと試みました。しかしここにも大きな障害があり、僕たちはまた頭を悩ませることになるのです。と、これはまた次のお話で。