多頭飼育崩壊①~行政とボランティアそれぞれの立場~
「多頭飼育崩壊」をご存じでしょうか?
飼育している動物の数が何らかの理由で爆発的に増えることにより、飼い主の生活破綻、周辺住民への悪臭被害、動物虐待等を引き起こしている状態のことを、一般に「多頭飼育崩壊」と呼びます。ただし、多頭飼育崩壊はさも固有名詞かのように使われますが、これは世の中のどちらさんかが作った造語なので、僕が動物愛護センターで勤務していた間は、「動物の多頭飼育による不適正飼養」なんて、まどろっこしい言い方をしていました。
爆発的に増えるって、どれぐらい飼ってるの?って話ですが、これはケースによりまちまちです。ワンルームで40匹なんてケースもザラですし、10匹程度でどえらいことになっている家もありました。
じゃあこれを解決していこうとしたときに、「このバカみたいな数をどうするのか」という問題に当然直面します。「基本的には」、何人もの動物愛護団体や個人ボランティアが猫を連れて帰り、それぞれが譲渡を頑張るという形で終わっていくのですが、ボランティアの方々にも当然キャパがあります。「私らこんなに頑張ってるやん、行政も手伝えや」って一部のボランティアは声をあげるわけです。
ここで当たり前の話ですが、行政は税金で運営されています。動物愛護センター職員は、動物を「愛護」、つまりただただ動物をヨシヨシして給料をもらっているわけではありません。
動物を世話するのにかかる費用っていうのは、なかなかのものです。そして当然収容の限界はあるし、収容の限界が来たら、殺処分せざるを得ない。なぜなら、動物愛護センターは税金で運営されているからです。動物嫌いな人からすると、「無責任なアホ飼い主が増やした動物を、役所が税金で飼育するってバカじゃないの?税金返せ!税金泥棒!」ってなるわけです。
このあたりで、じゃあ動物愛護センターの動物愛護って何やねん!っていうデカい声が一部のボランティアの方々から聞こえてきます。これは、動物愛護精神の普及啓発を行うという意味での動物愛護センターなのです。つまりは、「動物は愛情を持ってきっちり飼えよ!」っていうことを啓発する施設、という意味です。
つまり、動物行政と動物愛護ボランティアは、その根っこの部分から違うのです。そこに気付いていないのは、職員もボランティアも同じです。だから多くの場合、互いに罵りあうんですね(実際のところは公務員はおとなしくしてるから、ボランティアが大声出す構図)。
ボランティアさんは確かに無理難題を言ってくることが多いです。行政としてやってはいけないことって、たくさんあるんですよね。でもその中には、「やってもいいこと」も紛れてる。なのに、「ボランティアは行政の敵だ!」みたいな風潮が行政側で強くなってくると、「やってもいいこと」がどんどん見えなくなってくる。僕はこれが一番怖かった。だから、やってもいいことについては、上司に「やりましょう」って言ってみるんです。もちろん、馬鹿正直に「やりましょう」なんて言いません。「これやっておかないと、あとであの人ら何言ってくるかわからんっすよ」みたいな感じで交渉するのです。
ただ、残念なことに、外にはそう見えていなかったようで、最終的に、「職員Aがすべて糸を引いている」としてボランティア団体からうちのお偉いさん(市長と医務監っていう偉い人)に対して、要約すると「こいつのこと嫌いやから何とかしろ」って手紙を書かれ、僕は退職をすることになったのです。まあ、それはまた別の記事で。
と、話が脱線したところで、今日はここまで。多頭飼育崩壊をめぐる話は、いろんな背景をおさえておかないと、極端な思考に陥ってしまいがちなので。行政の立場とボランティアの立場について、触れさせていただきました。